にいがた版 2016年7月2週号
原風景残したい
稲文字に思い込め
上越市 大月の棚田を守る会
上越市の旧東頸城地域に位置する牧区には、地域随一の景観を誇る棚田が存在する。この環境を守ろうと地元の農家が団結して「大月の棚田を守る会」を立ち上げた。
稲文字「生ル」。 |
大月の棚田 |
「棚田の原風景を残したい。誰かがやらなければ、守ることはできない」と話すのは、大月の棚田を守る会の会長を務める今井重雄さん(77)。2010年、大月地区の町内会の協力も得て結成された。畦畔(けいはん)の草刈りをするなど棚田の保全活動に取り組んでいる。
大月地区の棚田の代名詞が稲文字だ。同会を設立後、棚田を見下ろせる県道沿いに案内板を設置したが、それだけでは物寂しいと感じていた。そんなとき、全国各地で田んぼアートが人気を集めていたことに着目。放棄地になりそうな圃場に稲文字の植え付けを試みた。
最初の年は「大月ノタナ田2010」。以降その年の言葉と西暦、田植えの日が植え付けられている。
毎年、稲文字として植える言葉は今井会長が考える。その時々の社会情勢を鑑みながら、稲文字でメッセージを発信。東日本大震災が発生した11年の文字は「祈り」で、当時、世界中で「絆」が叫ばれていたが、犠牲者への祈りが先なのではないかという思いがあった。
「稲文字を見た人全てに、メッセージへの賛同を強要しているわけではありません。この文字を見て、人々がどう思うか。見方によって解釈は千差万別。何かしら感じ取ってもらえれば」と今井会長。
今年、約3㌃の水田に記された文字は「生(いき)ル」。この先も農業で生きていくという思いを込めた。
現在、個人として棚田で水稲を耕作しているのは、今井会長だけだ。他の耕地は、農地中間管理機構を通じて別法人へ委託されている。転作でソバを植える圃場もあり、一面に水稲が広がっているわけではない。
「完璧な姿を見せるつもりはないです。今の状態が現実であり、これが日本農業の縮図なのかな」と、稲文字とその景観で今後もメッセージを伝え続ける。
(田中健介)